戦略コンサル志望者のプロ経営者志向の増加
戦略コンサルティング会社で中途採用の面接をしていると、戦略コンサルタントを目指す動機として、「将来プロ経営者になりたい」という声が増えていると感じます。戦略コンサルティング会社では、いわゆる「ケース面接」の他に、候補者の過去の経験や将来のキャリアプランを聞く時間が2-3割あります。(ここが面接の合否に影響することは少ないです)
「将来どういうキャリアを目指していますか?」という質問に対する答えは、大きく2つに分かれます。ひとつは、「コンサルタントとしてクライアントの課題解決に貢献し続けたい」という回答です。将来パートナーを目指したいという回答をされる方もいます。一方近年かなり増えていると感じるのが、「将来は事業会社で戦略コンサルティング会社の経験を活かしたい」といういわば戦略コンサルタントの経験を修行と考えながら働きたいというものです。
将来は事業会社で戦略コンサルタントとしての経験を活かして働きたいというのは、リーマンショック前後からもあった考え方であり別に特に新しいものではありません。戦略コンサルティングの経験を活かし、大企業の経営企画等のマネジメントポジションを狙う、企業含めベンチャーのマネジメントポジションを狙うというのは伝統的な選択肢でした。しかし近年は、それらに加えて「プロ経営者として活躍し続けたい」という声が徐々に増えてきています。この記事では戦略コンサルタントとプロ経営者の親和性について考えたいと思います。
プロ経営者とは
私は複数の会社のマネジメントポジション(CXO)としてキャリアを積んでいる人がプロ経営者であると考えています。
プロ経営者と呼ばれるには、1社のマネジメントでは足りないと思います。社長をはじめとしたマネジメントポジションにつくには、本人の実力に加えて、運の要素も強く働くためです。実力は他社員と大差なくても、非常に運が良かったという理由で、大企業の社長になっている例が存在し、そのような方を「プロ経営者」と呼べないというのは、事業会社で働いた方であれば感覚的にわかって頂けるかと思います。
一方で、複数の会社でマネジメントポジションを務めるのはかなり大変です。運の良さはもちろん必要なのですが、1社目の実績や、社内外の評判など、2社目以降はより厳選された結果としてオファーされます。その意味で複数の会社でマネジメントポジションを務めることができる方は、「プロ野球選手」、「プロ演奏家」などと同様、まさに「プロ」と呼べる存在かと思います。
代表的なプロ経営者としては、日本マクドナルドやベネッセの原田泳幸氏、日本コカ・コーラや資生堂の魚谷雅彦氏、LIXIL、ゼネラルエレクトリック(GE)の藤森義明氏などが有名です。
キャリアとしてのプロ経営者
戦略コンサルティング会社出身のプロ経営者は多いです。しかし、多くのプロ経営者は戦略コンサルティング会社を退社し、事業会社で5年、10年と実績を重ねた結果として、プロ経営者に行き着いています。
勘違いが多いところなのですが、戦略コンサルティング会社でパートナーであっても、すぐに事業会社のCxOとして招聘されることは非常に稀です。ベンチャー企業を除くと最近はほぼゼロではないかと思います(せいぜい執行役員クラス)。マネージャー、ましてはジュニアクラスであれば、課長クラス、無タイトルで転職ということも珍しくはありません。それは、プロ経営者と戦略コンサルタントに親和性はあるものの、相違点も多いからです。
プロ経営者と戦略コンサルの類似点と相違点
類似点
どちらも高い成果にコミットするプロフェッショナルであるということが、最大の共通点です。プロ経営者はもちろんですが、戦略コンサルタントも成果(アウトプット)に強くコミットすることが求められます。
戦略コンサルタントは本質的な経営課題を抽出し、課題解決に向けたプランニングをするという非常に難易度の高い業務に取り組みます。クライアントから求められる水準も、社内的なスタンダードも非常に高いです。そのような環境で常に切磋琢磨し、自ら行動し、成果をあげるというプロフェッショナル性が基本的なフォームとして身についている戦略コンサル出身者にプロ経営者が多いというのはある意味自然です。
相違点
相違点はいくつかあります。代表的なものを挙げていきたいと思います。
「戦略立案と実行は違う」
よく言われることですが、戦略立案を基本的なサービスとする戦略コンサルタントと、実際に売上・利益にコミットするプロ経営者は全く違います。戦略コンサルタントは良い戦略を策定するのが最大の価値であり、その戦略を実行できる人材とは限りません。周囲を巻き込みながら、時には自身も手足を動かし、戦略をやり切る実行力は、戦略立案に求められる能力とはかなり異なります。(筆者は本質的には同じかもしれないと思っていますが)
「社内のメンバーが優秀とは限らない」
スキルと意志(ウィル)から考えます。戦略コンサルティング会社はアップ・オア・アウトを適用していることもあり、能力が低いコンサルタントは淘汰される仕組みですので、基本的には全員それなりに優秀です。そのため、「1言えば10わかる」人間同士、あうんの呼吸で仕事が進んでいくことも多いです。さらに、戦略コンサルティング会社の社員は、全員が成長意欲の塊です。一定のスキルが担保された社員が、自らをモチベートしている集団という意味で、少し普通の会社とは異なります。
事業会社においては、いろいろなタイプの人がおり、リーダーは社員を鼓舞することが大きな役目です。時には業務に必須なスキルを身につけさせるために、メンバーを鼓舞しなければならないこともあります。成果を出すことよりも、頑張ったプロセスを評価してほしいという社員も多いでしょう。この辺りのバランスをどう取りながら、会社の成果にコミットしていくかというのはプロ経営者にとって重要な課題です。
業務・責任の幅
プロ経営者は原則、全ての業務に責任を持つ必要があります。戦略コンサルタントは戦略立案という特定の機能のプロであるに過ぎません。プロ経営者は事業、財務、人事、IT、法務などの全てに見識を持ち(もしくは適任者に権限委譲し)、そこから生じる結果に責任を持つ必要があります。戦略コンサルタントはなんだかんだ言って、ポジションが上がるにつれ、戦略立案の中でも得意分野が特定されてくるケースが多いです。それぐらいのエッジが立って来なければ、大金をもらってプロジェクトを受注するのが難しくなってきます。したがって、企業の全機能について見識を深めていくというのは結構難しいです。
「ストーリーとしての経営戦略」などの書籍で有名な楠木建氏は以下のように述べています。戦略コンサルタントは戦略立案という機能に閉じていると考えると、この主張の意味するところがよくわかります。
その人の仕事が機能の「担当業務」に閉じていたとすれば、どんなに規模が大きくても、その仕事は「経営」ではない。商売丸ごとを動かしていくのが経営であり、それは「総合力」の勝負となる。
「戦略読書日記」楠木建著
結局のところ
戦略コンサルティング会社を経由してプロ経営者を目指すというのは、キャリアとして悪くはありませんし、戦略コンサルティング会社を経由することで、プロ経営者になるという目標を実現する可能性も高まるとは思います。しかし、現実的には戦略コンサルティング会社を卒業後、一定期間事業会社で過ごす必要も出てきます。給与面や業界を絞ることへの不安感などから、戦略コンサルティング会社をやめて事業会社に移るという選択は、ある意味で戦略コンサルティング会社に転職するよりも難しい決断になることが多いです。プロ経営者を目指す方は、自分が将来どういう業界、どういうステージの会社のプロ経営者になりたいかということを考えながら、戦略コンサルタントとしてのキャリアを作っていくのが望ましいと思います。
プロ経営者に関わらず、ポスト戦略コンサルタントのキャリア全体については以下の記事でもまとめています。
>>>ポスト戦略コンサルタントのキャリア