デロイトの引き抜き訴訟について思うこと

自身がデロイトトーマツコンサルティング(以下デロイト)→EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYストラテジー)へ移籍するに際して、懇意の社員がEYに移籍するよう勧誘し、引き抜いたとのことで、デロイトの元パートナーである國分俊史氏に対して有罪判決(第1審)が下されました。

筆者はこの訴訟の存在自体あまり知りませんでしたが、「またコンサルティング業界にとってあまり良くないことが起こってしまったな」という印象を持ちました。

 

デロイトの引き抜き訴訟の概要

2018年にデロイトを退職し、黎明期であるEYストラテジーの成長・拡大に向け移籍した國分俊史氏が、古巣のデロイトより訴えられている事案です。

國分俊史氏はEYストラテジーへの移籍に際して、懇意であったデロイトのコンサルタントに対してEYストラテジーへの移籍を促したことで、デロイトより1億2千万円の損害賠償を求められていました。第1審判決では、裁判長は社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為」としたうえ、國分俊史氏に5千万円の支払いを命じました。

無罪請負人と定評のある喜田村洋一弁護士を立てた國分俊史氏ですが、「移籍の事実を告げただけで、勧誘していない」と自身の主張が受け入れられず今後控訴していくのか興味深いところです。

 

コンサルティング業界の転職・引き抜きあるある

コンサルティング業界(というか金融や法曹も含むプロフェッショナル界隈全般)では、「チーム単位の転職」が時々起こります。多くの場合、影響力のあるパートナー・MD(稀にプリンシパル・ディレクターということも)の退職に伴い、そのチームがゴソッと抜けていくという形で顕在化します。

特定パートナーがファーム内の政治的闘争に敗れて失脚→退職するときや、新ファームが立ち上がっているフェーズなどに「チーム単位の転職」が比較的起こりやすいですが、パートナーサイド、パートナー未満のコンサルタントサイドの双方の利害が一致しているという面も見られます。

パートナーとしては「移籍先でより早く自分の体制を構築するために、有能な社員を連れていきたい」という意図が働きます。(とりわけファームのレベルが、現ファーム>新ファームの場合、移籍先で1からチームを作るのは難しく、有能な社員を連れていくというのはパートナーにとって死活問題になります)

コンサルタントとしても「xxパートナーについていきたい」と考えることに合理性があります。コンサルティング業界では、ダメなコンサルタントでなければ、徐々に特定のパートナーに執事することが多くなります。コンサルタントとしても評価をしてもらえているパートナーの下で、特定のインダストリーに特化していくことでより仕事の質が上がり、結果としてプロモーション(昇格)が速まることにつながるからです。自身が執事していたパートナーがいなくなり、新たに自分を推してもらえるパートナーを探すには時間がかかることもありますので、「パートナーについて自分も移籍する」という選択をするコンサルタントが稀に現れるわけです。
(ついていくコンサルタントに「エース級」は少なく、「中の上」ぐらいのコンサルタントであるケースが多い気がします。エース級は同ファーム内でもすぐに代替パートナーを見つけられます)

 

そもそも引き抜くことが問題なのか

退職時に同僚を引き抜くことは就業時の契約書上で禁止されていることが多いです(私も自分が勤務経験あるファームの契約書を見てみましたが、それらしき文言が記載されていました)。今回の事案でもデロイトは執行役員の規定中で、コンサルタントの引き抜きが禁じられていることを根拠として、國分俊史氏に対して訴訟提起しています。

法律論として見ると、禁じられていることをやったのだから咎められるというのはわかるのですが、「プロフェッショナルであること」を事あるごとに徹底して叩き込んでいくコンサルティングファームがこのような事案で実際に訴訟まで起こすというのはやや違和感を禁じ得ません。

プロフェッショナルであるからこそ、(たとえそれがパートナーからの勧誘がきっかけであったとしても)コンサルタントのファーム選択は最大限尊重されるべきであり、余程の事情がない限り、パートナーによるコンサルタントの引き抜きは見過ごされるというのが業界としての暗黙ルールだと理解していました。

そうでなければ、前ファームのコンサルタントが移籍を望む際に採用しにくくなってしまい、コンサルティング業界の人材の流動性が失われてしまうことにも繋がりかねないからです。

今回のデロイト引き抜き訴訟においては、「余程の事情」があるのかもしれません。そうであれば、「余程の事情」がどの程度のものであるのか、今後明らかになっていくことを期待したいと思います。
(一般企業と比べて「余程の事情」というのは勘弁してもらいたいところですが…)

それにしてもデロイトさん、こんなことで訴訟をするなんて費用対効果も悪いし、採用におけるブランドイメージの毀損にもなると思うのですが、なんでこんなことになってしまったのでしょうか???

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