生涯投資家(村上世彰著)

書籍名:「生涯投資家」

推奨対象:村上世彰を知っている方(30代〜)、将来ファンドへの転身を考えているコンサルタント

生涯投資家(村上世彰著)

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時間がない方はここだけ読んで下さい

村上ファンドで知られる村上世彰氏が東京スタイル、ニッポン放送、阪神鉄道など、自らが関わった案件を振り返りながら、「自身が目指していたもの」について綴った本です。

自身が追究したコーポレート・ガバナンスを定義しながら、「会社は誰のものか」、「会社を上場することの意義は何か」などの問いに対して、自身の明確なスタンスを示しています。

ハゲタカファンドというイメージや、インサイダー取引による逮捕暦もありますが、村上世彰氏は間違いなく日本を代表する投資家であったと思います。

自身の理想の追求、ファンドマネージャーとしての責任から、誰に対しても妥協しないという姿勢を貫いたことで、多くのあつれきを生んできました。それらのエピソードを描いた本書の臨場感は映画さながらです。(特に東京スタイルについて書かれた章がおすすめ)

関係者の固有名詞やコミュニケーション内容の詳細が出てくるため、「こんなこと書いて良いのかな」と心配になってしまうぐらい臨場感があります。

ファンド業務からは一定の距離を置いているということですが、物言う株主としてはたまに見かけますね。ベインキャピタルが廣済堂のTOBを行った際には、旧村上ファンドも敵対的TOBを仕掛けるなど注目を浴びました(結局廣済堂のTOBは不成立)

また直近ではドワンゴが運営する通信制N高において、"投資部"を設立し自身が名誉顧問に就任するなど、社会的な動きも活発化されているようです。(見た目はだいぶ変わりましたね)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/22/news095.html

印象に残った点

村上世彰の投資方針

リスクとリターンの大きさから算出する期待値を軸とし、保有資産に対して時価総額が低い企業に投資するバリュー投資を徹底しているということだ。

やっていることは実にシンプルである。優れた投資仮説によるのではなく、ファクトに基づく投資方針であり確度はかなり高そうである。一時、村上ファンドが投資した先に買いが入るという現象があったことも頷ける。

私はこのリスクとリターンの関係を、「期待値」と呼んでいる。期待値が大きくないと、金銭的には投資する意味がない。そこを的確に判断できることが、優れた投資家の条件だ。期待値を的確に判断するためには、数字だけではなく、その投資対象の経営者の資質の見極め、世の中の状況の見極め等、実に様々な要素が含まれる。

「生涯投資家」(村上世彰著)P.16

私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ。このような会社には、経営に問題を抱えていることが多々ある。


「生涯投資家」(村上世彰著)P.18

投資家と経営者の違い

投資家と経営者の関係をシンプルに示している。

投資家と経営者では、必要な能力や資質が全く違うと思っている。投資家はリスクとリターンに応じて資金を出し、会社が機能しているかを外部から監視する。経営者は、投資家に対して事業計画を説明し、社内の人材や取引先などをマネジメントして最大限のリターンを出す。

「生涯投資家」(村上世彰著)P.50

少し話はずれるが、日本の商社という存在は投資家と経営者の両方を兼ね得るという意味で、非常に不思議な存在だ。(売却という形でエグジットをしないという意味で、投資家よりも経営者に近いと思う)

最近、戦略コンサルタントの転職先として総合商社を選ぶというケースをよく聞くようになってきた。一昔前であればこのようなキャリアはあり得ないキャリアであったが、戦略コンサル、総合商社ともに存在が少しずつ変わってきているのだと思う。

上場することの意味

企業とその経営者にとって、上場には二つのメリットがある。ひとつは、流動性があること。すなわち、株式が換金しやすくなることだ。もうひとつは、資金調達がしやすくなることだ。逆に言えば、この二つが必要ない場合には上場する必要もない、と私は考えている。

「生涯投資家」(村上世彰著)P.23

若干投資家目線によりすぎた整理にも感じるが、たしかにそうだなぁと思う。ただ、本人が言っているように、オーナー企業以外がMBOで上場廃止をするのは、現実的にはかなり難しいんですよね。

日本におけるMBOの事例を見ていると、ほとんどがオーナー系企業のようだ。みんなと一緒に入社して社内を昇り詰めていくサラリーマン社長の企業では、経営者は株主ではなく、株主であっても持ち分が少ない。MBOによって自らが大株主になり、非上場化して突然オーナーとして経営を担っていくという選択は、極めて難しいのだろう。

「生涯投資家」(村上世彰著)P.27

東京スタイルのエピソード(映画さながら)

東京スタイルのエピソードはドラマよりも迫力があった。東京スタイルを巡っては、村上世彰氏はイトーヨーカドーの伊藤会長の協力を仰ぎながら、東京スタイルの高野社長とのコミュニケーションを進めていた。案件が佳境に入る中、イトーヨーカドーの伊藤会長が用意した妥結に向けた4者会談から村上世彰氏は立ち去ってしまう。会談での妥協案を飲めなかった村上世彰氏は東京スタイルを巡るプロキシーファイトへと進むが、外国人投資家の票読みの甘さから敗れてしまう。このエピソードは本当に映画さながらの臨場感である。

この出来事(東京スタイルへの投資をめぐり、伊藤会長がアレンジした高野社長、HOYAの鈴木氏との会談からを立ち去ったこと)は、自分にとって「妥協して生きるかどうか」のターニングポイントだったかもしれない。もちろんファンドとしてリターンの最大化を考えても、私の信念を形にするために立ち上げたファンドの責任者として、私は恩人を前にしても、どうしても妥協することができなかった。負けるはずなどなかったのに、なぜ負けたのか。原因はわからなかった。2002年8月、東京スタイルの中間決算時点の株主名簿を取得してみたとき、ようやくその理由を知った。なんと、頼りにしていた外国人株主の割合が、40%から20%後半まで大幅に減っていたのだ。彼らは、プロキシーファイトが始まって東京スタイルの株価が高くなったのを見て、ここぞとばかりに株を売り払っていたらしい。私は、自分の読みの甘さを悔やむほかなかった。

「生涯投資家」(村上世彰著)P.99

村上世彰を知る世代にとっては手に汗握る非常に面白い本ですので、是非一読してみていただければと思います。

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