書籍名:クロスボーダーM&A成功戦略
著者:松江英夫・篠原学(デロイトトーマツコンサルティング)
お薦め対象者:総合商社の若手~中堅社員、若手投資銀行社員、M&A担当者、M&A領域コンサルタント、
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忙しい方はここだけ読んで下さい
私は戦略コンサルタントとしてPEファンドや総合商社向けのプロジェクトを回すことが多いのですが、これまであまりM&Aのプロセスそのものについては関心がありませんでした。しかしM&A関連のプロジェクトを仕切る頻度が年々増しており、M&Aを全体として理解する必要性を感じたことから手にとったのがこの本でした。
本書の良さは、M&Aのケース事例をベースにM&Aのプロセスを、入門としてまとめている点です。デロイトトーマツコンサルティングのM&Aコンサルタントである著者が、M&Aをケース形式で取り扱うことで、所謂戦略ケースの読み物としての役割も兼ねています。戦略コンサルタントをはじめ、総合商社の事業投資担当者や、その他事業会社の経営企画室、財務部の方にとっても入門書として一読の価値があります。
(逆にある程度プロセスをわかっている方にとっては、「なんだそんなことか」というレベルかもしれません)
本書ではM&Aにおける要諦がトピック毎にまとめられているため、戦略立案→ソーシング→DD・交渉→契約→PMIのような時系列で辞書的に使うという用途には適していません。しかし、論点を時系列で整理し直すと、M&Aのチェックリストとして活用できるのではないかと思います。
戦略コンサルタントを一定期間やっていると、M&A戦略の策定、ビジネス・デュー・デリジェンス(BDD)、100日プランの策定、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)などM&Aに関わるプロジェクトに必ずアサインされます。近年はPEファンドの活況な投資環境、総合商社の事業投資の拡大により、M&A領域のプロジェクトは急増しています。
BDDを始めとするM&A関連のプロジェクトにおいて戦略コンサルタントが求められる主な役割は、「投資仮設の構築と検証」、「事業計画の策定と精緻化」です。例えばBDDにおける典型的な戦略コンサルタントの役割は、事業単体(スタンドアロン)、シナジー創出それぞれの観点から、事業拡大余地とコスト削減余地を特定し、エクセルの事業計画モデルに落とし込んでいくというものです。
戦略コンサルティング会社は投資銀行ではありませんので必ずしも、M&Aそのもののプロセスや投資スキームの理解が求められているわけではありません。しかしM&Aや関連プロジェクトが増加により、戦略コンサルタントにとってもM&Aの基本的なプロセス、スキームは必修科目になりつつあると思います。
M&A戦略の立案
本書ではM&Aの目的を事業家目線と投資家目線の両方で捉えた上、事業家目線で重要なこととして、M&Aの目的がコア事業の徹底強化という一点に集約されるべきであると述べられている。コア事業の徹底強化の手段であるM&Aにおいては、コア事業の明確な定義、成長戦略ストーリー作り、ターゲットの明確化が重要である。
これが本書におけるM&A戦略の立案として語られていることの骨子である。内容は当たり前過ぎるのだが、M&A戦略の策定における原則を非常にシンプル・明確にしており、本書に取り上げられた多数のケースをこの原則に当てはめて理解を深めたい。買収候補先のロングリストの作成、ショートリストへの絞り込みにおける方法論の整理はされていないため、とりわけこのようなプロセスに関心が高い方は注意したい。
M&Aにおける交渉
M&Aの交渉は、事前交渉から本格交渉まで長期に渡ることが多い。本書では、交渉におけるテクニカルな注意点(事業情報の開示、買収価格の提示タイミング)や交渉が難航した場合の社内意思決定における留意点(No-go判断、定量化の重要性)、将来の係争防止など、典型的な論点についての網羅性は非常に高い。
M&A後のPMI
本書の約4割のページを割いて、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)についての基本的な考え方がまとめられている。著者のひとりはPMI領域の第一人者であるが、内容としてはこの5-6年で一般的になってきているものであることと、PMIは人のマネジメントが大きなテーマになることもあり、若干”フワフワ感”が漂っているのも事実。このフェーズに興味が無い方は一旦読まずに本を閉じるというのも一つかもしれない。