ベイン・アンド・カンパニー(Bain&Company)のプリンター市場に関するケース問題です。
ケース問題
ベイン・アンド・カンパニーのクライアントであるプリンターメーカーA社の売上を予測した上、提言を考えよ。
ケースの前提・背景
ベイン・アンド・カンパニーのクライアントである世界有数のプリンターメーカーA社より相談を受けた。プリンター業界は縮小している中、競合他社と比べてA社の利益率だけが悪化している。ベイン・アンド・カンパニーとしてはA社に対して、利益率悪化の原因と利益率向上に向けた打ち手を提案したいと考えている。
なお面接のスタイルとしては、考える時間は取らずに、面接官とディスカッションをしながら進めていく形です。
出題実績
ベイン・アンド・カンパニーの面接での出題ですが、プリンター関連の問題はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の面接でも出題された実績があります。
解答例
プリンターメーカーA社の売上算出
アプローチとしては、プリンターを家庭用プリンターと業務用プリンターに分けて考えます。また、ベイン・アンド・カンパニーの顧客であるA社は世界有数のプリンターメーカーであることから、海外売上比率は50%程度であることが予測されます。したがって、まず国内家庭用プリンターと業務用プリンターの売上を算出し、合計を2倍することで算出します。
国内家庭用プリンター
まずプリンター本体ですが、保有世帯数÷耐用年数×市場シェア×単価で計算します。
保有数ですが、世帯あたりの保有率を考えます。感覚としては、近年プリンターの保有世帯は減っており、せいぜい10世帯に1世帯程度の保有率と考えられます。国内人口を1.2億人、平均世帯構成員を3人とすると、世帯数は4,000万世帯となりますので、その10%の400万台が保有台数となります。
保有台数を耐用年数で割り、市場シェアを乗じることで、A社の年間販売台数を算出します。耐用年数は5年、A社の市場シェアは33%(3社の寡占市場と仮定)と考えると、約30万台(正確には27万台)がA社の年間販売台数と算出できます。
A社の年間販売台数に単価をかけ売上を算出します。平均単価は2万円と仮定すると、30万台×2万円=60億円がプリンター本体の売上となります。
加えて消耗品(主にインク)を考えます。A社の製品の市場存在数は約150万台(400万台の33%)と考えられます。年に一回インクを購入し、その単価は2,000円とすると、インクの売上は150万台×2,000円=30億円となります。
国内事業所向けプリンター
まずプリンター本体ですが、プリンターを購入する企業数×平均台数÷耐用年数(5年)×市場シェア(33%)×単価で計算します。(耐用年数と市場シェアは仮定用プリンターと同値)
日本の企業数は10万企業とし、平均プリンター保有台数は2台、平均単価は20万円と仮定します。
計算すると、事業所向けのプリンターの販売は約25億円となります。
次に消耗品ですが、国内事業所向けプリンターはメンテナンス契約を結び、年間で固定フィーを請求していると考えられます。1作業員あたり10社を担当しており、1作業員の平均コストと1作業員から生まれる利益の合計が年間300万円と仮定し売上を算出します。
A社の国内事業所向けプリンターの数は、10万企業×2台×33%で65,000台です。これに300万円をかけると約200億円となります。
全社の売上の計算と検証
国内の家庭用/事業所用プリンター本体と関連売上の合計は315億円となります。海外売上比率は50%とするとA社全体の売上は630億円となります。
グローバルメーカーとして売上が630億円というのはかなり少ないですので、台数の算定ロジックや単価算定ロジック等で前提がおかしそうなところは意識しておきましょう。影響が大きそうなのは、事業所向けプリンターです。中小企業でも工場と本社で複数のプリンターを保有しているケースは多いでしょうから、平均保有台数は多そうです。また、「1作業員の平均コストと1作業員から生まれる利益の合計が年間300万円」という前提もグローバル企業としては低すぎるかもしれません。
利益率悪化の原因
利益は売上-コストで算出できます。従い、A社の利益率が他社と比べて下がっているということは、売上起因のもの、コスト起因の2つの方向性が考えられます。
売上は台数×単価であり、ここで利益率にインパクトがあるのは単価です。市場縮小の局面において、値下げや小売チャネルへのリベート施策を打つことで、利益率が低下している可能性があります。
次にコストの観点です。コストは変動費と固定費に分けられ、利益率悪化の要因として大きく2つの可能性が考えられます。
まずは固定費が重い可能性です。余分な資産の保有や、固定の人件費の比率が高いなどにより、固定比率が上がり、結果として市場縮小による売上減少が他社と比べて大きく利益率に影響している可能性があります。
次に変動費です。資材や人件費高騰の影響を強く受けている可能性があるかもしれません。他社は容認していないサプライヤーからの値上げを受けているなどの場合、利益率の悪化要因となります。
若干視点は変わりますが、事業ポートフォリオの観点で1点付け加えます。A社のビジネスは、大きくプリンター本体の販売と消耗品販売・メンテナンスに分けられます。ここで、より利益率が大きいのは消耗品販売・メンテナンスであると予測されます。利益率が高い消耗品・メンテナンス事業の比率が下がることで利益率が下がっているという可能性があります。
打ち手
利益率悪化の原因で述べた単価の下落、コスト比率の悪化、事業ポートフォリオの変化別に施策を検討します。
単価の改善
・値下げ施策によって、効果が出ているチャネルと出ていないチャネルを分析し、効果が出ていないチャネルへの値下げ、リベート施策をやめる
・付随機能により、ハイエンドモデルを開発・販売する
コストの削減
<固定費>
・遊休資産の除却
・固定人件費の流動化(派遣への切り替えなど)
・稼働率の適正化
<変動費>
・サプライヤー・人材会社との徹底した購買交渉の実施
・材料、人材の要件定義を明確化し、オーバースペックを防止
事業ポートフォリオの見直し
・高利益率の消耗品・メンテナンス事業の営業強化
・他社プリンター向け廉価消耗品の開発
・(競争が激化しているプリンター本体事業の縮小)