9月25日、大江戸温泉物語グループを保有する米投資ファンドのベインキャピタルが、大江戸温泉物語グループを売却する手続きに入ったというニュースが飛び込んできました。近年プライベート・エクイティ・ファンドによるM&Aが活発化しています。
この案件も結構な規模ですので、プライベート・エクイティ・ファンド勢や戦略コンサルティングファームが裏でバタバタと動いていそうな匂いがします。
ベインキャピタルの大江戸温泉物語売却に関する報道
ブルームバーグの報道によると、「ベインキャピタルは1000億円超での売却を目指しており、ソフトバンクグループや複数の投資ファンドが1次入札に参加した。新規株式公開(IPO)の選択肢も検討している」とのこと。ソフトバンクは温泉施設やホテルを展開するフォートレス・インベストメント・グループを傘下に収めており、10月には不動産やホテルを保有するユニゾホールディングスのTOBによる子会社化を予定するなどの動きを取っており、大江戸温泉物語グループの買収の有力候補先と見られています。
大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは、2015年にベインキャピタルが負債を含めて500億円でM&Aによる買収を行いました。ブルームバーグによると、今回ベインキャピタルは大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツを1000億円以上での売却を目指しているとのことです。以下バリュエーションが単純に2倍ですが、その妥当性について考えてみました。
ベインキャピタル参画後の大江戸温泉物語の改革・業績
ベインキャピタルのM&Aによる買収後4年半が経過しておりますが、ベインキャピタルのもとでホテルズ&リゾーツ事業は大きく成長してきたと言えそうです。公開情報を元に、過去6年間の売上、店舗数を調べてみました。
大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは非公開企業のため利益情報は不明ですが、2019/2期の売上は2015/2月期比で38%増加しており、店舗数は9店舗増(33%増加)となっています。2016年には温泉旅館に特化したものとしては世界初のREITを設立するなど、独自の手法で店舗を拡大してきました。
また橋本前社長の強烈なリーダーシップで拡大してきた大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは、ベインキャピタルの傘下に入ったことで、緩さが見られた採算・コスト管理の徹底により収益性も改善させてきました。
固定費率の低減の観点からは、4年間で1施設あたりの売上高が、3.8%増加しました。旅館ビジネスは固定費比率が高いと言われていますので、1施設あたりの売上高の向上は利益率の改善に直結しているものと考えられます。
さらに変動費の観点からは、ベインキャピタルのノウハウを活かしながら、徹底したコスト改革を行いました。ベインキャピタルの傘下に入ることで、提供する食材・資材の徹底的な洗い出しと、品目の見直し、購買改革を断行しました。ベインキャピタルが出資していたすかいらーくの手法を活かして、年間10億円程度のコスト削減効果を生み出したと言われています。(2016年12月5日 日経ビジネスによる報道を参照)
売上が約40%増加、店舗効率の向上、10億円のコスト削減の掛け合わせにより、M&Aにより500億円で買収した大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツを1000億円で売却するというのは、十分可能性がありそうなストーリーに思えます。
ベインキャピタルによる売却のタイミング
1点だけひっかかることがあります。将来的なIPOも視野に入っている大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツをベインキャピタルがこのタイミング手放す理由です。IPOをすれば更にリターンを得られることが期待できますので、この段階で売却に踏み切ったベインキャピタルの算段はどこにあるのでしょうか。
大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの成長カーブが緩やかになると読んでいるのか、ここで利益を確定させる必要がある何かがあるのか...。いずれにせよ今後の展開から目が離せません。
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